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環境めがねで見てみようVol.2 | 藤田 成吉さん

昔話「三枚のお札」編

2011.1.24 UP

昔話の中には、自然と付き合う大切な知恵の数々がシンボリックに表現されたものが少なくありません。今回は、「三枚のお札」を題材に、〈環境めがね〉をかけて、昔話に秘められた宝(知恵)ddd探しをしていきましょう。

スリリングな展開で人気がある昔話「三枚のお札」

お寺の小僧さんが恐ろしい山姥に追いかけられ、今にも捕まりそうなシーンを繰り返しながら何とかお寺に逃げ帰り、和尚さんの知恵に救われる。昔話「三枚のお札」はこんなスピーディーでスリリングな展開が人気の秘密とか。イザナキが黄泉国(よみのくに)から逃げ帰る「古事記」の話や昔話の「牛方山姥(うしかたやまんば)」とか「食わず女房」などもそうですが、逃走というモチーフは異形の者への憧れと恐れの入り混じった、原初の思考や人間の深層心理に根ざした古典的な物語の技法なのかもしれません。たとえば、ハリソン・フォード扮する考古学者ジョーンズ博士が秘宝を求めて異界に足を踏み入れ危機一髪で脱出する人気シリーズも、キモは同じってことですよね。

と、道草はここまでにして“環境めがね”で改めて「三枚のお札」を見てみましょう。むかしあったづもな、お寺の小僧さんが和尚さんの止めるのも聞かずに山に木の実を採りに行こうとする。和尚さんは山の中で恐ろしい目に遭ったらこれを使いなさいと三枚のお札を持たせる。小僧さんが山に行くと栗や柿などがいっぱい生っていたって。どうでしょう、このシーン!あなたの環境めがねに“里山”が浮かんできませんか。昨年(2010年)10月に名古屋市で開催された生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)で世界にも発信されたSATOYAMA。里地に続く小高い山、薪炭林(しんたんりん)として利用したり落ち葉を堆肥にしたり、木の実や山菜採りなど人の手が入ることによって形成された森と暮らしの共存する豊かな空間。そう、小僧さんのお目当ては里山の宝物(木の実)だったわけです。

ところが小僧さん、夢中になって木の実を拾い歩くうちに足を踏み入れたことのない“奥山”に迷い込んでしまう。深い森に覆われた奥山は自然の豊饒さと、簡単には人を寄せ付けない荒々しさを併せ持つ異界。小僧さんは迷い歩くうちにやさしそうな婆さまに出会い、山奥の家に泊めてもらうことに。ところが夜中に目覚めてみると、恐ろしい姿の山姥に変わって包丁を研いでいる。

自然の厳しさと優しさを表している”山姥”の存在

山姥はこの「三枚のお札」や「牛方山姥」などのように人を食べたり災いをもたらす恐ろしい妖怪・魔物として、また「糠福(ぬかふく)と米福」などのように不思議な力で栗や米を増やしたり無尽蔵に糸を紡いでくれる山の神・福の神としても語られています。環境めがねで見れば“山姥”とは、人に災禍と恵沢とを共にもたらす自然の両義性のシンボルというわけです。

さて、“序破急”の3段目、話はここから急展開。小僧さんは「ウンチをしたい」と外の便所(異界と此の世の「境」としての厠)に行かせてもらい、山姥が付けた腰紐を便所の柱に結びつけ、お札を貼り、一目散に逃げる。山姥は紐を引っ張っては「まだか!」。その度にお札が「まだだよ!」と答えるが、バレて追いかけられる。捕まりそうになり、もう一枚のお札で「山さ出てこい!」。山姥は山をものともせずに乗り越え追いかけてくる。また捕まりそうになる。三枚目のお札で「川さ出でこい!」。小僧さんはほうほうの体でお寺まで逃げ帰るが、すぐに山姥が追いかけてくる。と、このハラハラドキドキの逃走劇、環境めがねで見ると“自然が牙を剥く”姿が浮かんできませんか。最近では温暖化などの影響による集中豪雨で山の深層崩壊や洪水が多発、奥山も里山も荒れて熊やイノシシが里まで出没し人を襲う、こんなシーンと重なってきたりしますよね。

さあ小僧を出せ!と言う山姥に、和尚さんは落ち着き払いながら「化け比べをしてお前が勝ったら教えてやろう。どれほど大きく化けられるか」。山姥はこれ見よがしに巨大な姿に変身する。「ほー、ではどれほど小さく化けられるか」。山姥は得意満面、豆粒ほどに小さくなる。そこで、和尚さんは囲炉裏で焼いていたお餅の中に丸め込んで食べてしまった、とさ。和尚さんの知恵ってすごいなー、自然の猛威(大きくなる)を自然の力(小さくもなる)で治めてしまう。ひょっとすると、地域に根ざした伝統的な治山治水の知恵なのかもしれませんね。小僧さんはそれからというもの、人の手でみだりに荒らしてはならない奥山へは決して行かないようになったということです。

この昔話は<奥山~里山~里地>の多様な生態系によって形成される小宇宙の、エコロジカルな歩き方を教えてくれているのかもしれませんね。ちなみにお寺の小僧さんならぬハリソン・フォードもCOP10に参加し、生物多様性の保護を訴えていました。環境めがねで見る「三枚のお札」のおそまつ、これにてとっぴんぱらりんのぷう。

次号は「鶴女房」です。請うご期待!

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  • 藤田 成吉(ふじた せいきち)
  • 藤田 成吉(ふじた せいきち)
  • 元東海大学教養学部人間環境学科教授。
    主な著書に『環境キーワードの冒険』(日報)、共著に『持続可能な社会のための環境学習』(培風館)、『地球市民の心と知恵』(中央法規)、『ビジネスと環境』(建帛社)などがある。(公社)日本アロマ環境協会(AEAJ)理事。