アロマテラピー検定・資格の認定、学術調査研究の実施

アロマの研究・調査

インタビューVol.2 | 作家 C.W. ニコルさん

人と自然との共生

2010.5.14 UP

『美しい森を守ることができれば、日本はやがて「エデンの園」になれる』。
長野県黒姫の森を25年間かけて再生させたニコルさんならではの重みのあるメッセージです。

僕が日本に魅かれた理由

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僕はもうすぐ70歳。最初に日本に来たのが22歳ですから、もう48年、日本で暮らしていることになります。日本へ来るきっかけになったのは、ほんのささいな願望でした。14歳から柔道を習っていたので、一度、「講道館」の畳の上で柔道をやってみたかった。それに当時は幻の格闘技だった空手にも興味がありました。また、その頃の僕は、すでに「人間が荒らしていない大自然のなかで生きていきたい」と考えていたので、残りの人生は北極で暮らすつもりでした。それがまさか、それ以来日本で暮らすなんて思いもよりませんでした。

僕が日本に来て一番驚いたのは、自然と文明が共存していたこと。山に入れば、英国ではすでに絶滅してしまった野生の熊や、イノシシに出会うことができました。はじめて小川でオオサンショウウオを見たときなんて、動物園から逃げ出したのかと思いましたし、空を飛ぶムササビは誰かが投げた座布団に見えたものです。そこでもっと日本の自然を知りたくなった僕は、鉄砲の免許を取って猟友会に入りました。どうしてかというと、彼らが一番山の生物に詳しかったからです。仲間と入った黒姫の、それは美しいこと。数時間で4頭の熊に出会いました。チチチとヤマガラの鳴き声が聞こえ、空にはタカの優雅な舞いが。雪の上の足跡からは、キツネやリスなどさまざまな生物の物語が見て取れました。そのとき僕はこう思いました。「ここは神々の世界」だと。そう、僕はすっかり日本の自然を愛してしまったのです。

壊れていった日本の森

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悲劇がはじまったのは、僕が黒姫へ来た翌年のこと。前年に猟友会の仲間と歩いた森で野宿をするために、僕はカメラを抱えて森に入りました。しかし足を踏み入れてすぐに、僕は愕然としました。木がないのです。あの立派な姿をしていた木が、すべて切られてしまっていました。切り株の年輪を数えたら、なんと400年以上のもの。もちろん熊もいません。仲間に聞くと、森から降りてきた熊が畑を荒らして問題になっていたそうです。それは当たり前。死んでしまった森に熊の餌場はありません。僕はそのとき、本当にガッカリした。一番信用する友人から裏切られたような、そんな気分でした。

そしてその次の年、地すべりが起きたのです。森を守る木がなくなったのだから当然のこと。住民に頼まれた僕は、森の危機をメディアでアピールし始めました。その頃、僕に一通の手紙が届きました。それは僕が捨てた故郷、南ウェールズの政府から。なんと南ウェールズでは、石炭産業で荒れ果てた土地に緑を回復させようとする人々の努力が実を結び、森が息を吹き返したところだったのです。それを知った僕は考えました。もう愚痴は言いたくない。日本に幸せをもらった僕にできることは何だろうと。答えはひとつでした。「そうだ、森を再生させよう」。これが『アファンの森』のスタートです。

「熊が住める森」を目指して

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僕はすぐに黒姫に放置されていた土地を買い、猟友会の仲間であった松木さんを誘い、森の再生に着手しました。当時の森は、木の枝が伸びっぱなしでからまり、光が射さない。土はひからびた茶色で、もちろん生き物もほとんどいない、貧弱でひどい状態でした。まず僕たちは森のシンボルである「熊」が住める森を目指し、消えてしまったブナやトチなどを植えました。どうして熊が大切かというと、生態系の頂点にいる動物だからです。熊のいる森は豊かな森なのです。僕たちは適切に光が差し込むように、木を1本1本見回り「切るか」「切らないか」を決め、たくさんの生物が帰ってくるようにと作業を続けました。すべて一からのスタート。簡単なことではありません。ただやらずにはいられなかった。ひたすら熊が帰ってきてくれることを願って、松木さんと二人、毎日森に入って汗を流しました。

あれから25年。いま『アファンの森』では137種類の山菜がとれます。キノコは名前が分かっているものだけでも400種類。花も増えました。鳥や昆虫も来ました。絶滅危惧種も23種戻りました。ふくろうのために作った仮住まいには、ムササビが住み着いています。この25年間に木々も成長し、洞ができて、そこにふくろうが巣を作ったからです。そしてもちろん、熊の姿も。いま僕は森へ入るたびに、小さな男の子のように夢中になって「松木さん、あれは何?」と聞いています。毎日、新しい動き、新しい音、新しい香りを発見できるので、退屈することがありません。『アファンの森』はいま、健やかに生態系が回り始めたところです。

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日本は「エデンの国」になれる

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『アファンの森』を通じて、僕は日本の森の再生力に感動しました。ただ、自然保護イコール“放置”ではありません。人間が荒らした自然は、人間の愛情と汗なしでは蘇らないのです。我々一人ひとりの意識が、森を、そして地球を変えられることを知ってください。それに日本の森は、生物の多様性がとても豊か。多様性は可能性です。これから地球は気候変動が激しくなります。その変化に立ち向かうには、さまざまな生物が協力し合う必要があります。生物が生き残る可能性は、日本の森のような多様性にかかっているのです。日本の森の力をいま一度、みんなで再確認してほしい。それを心から願っています。

時折、こういう質問を受けることがあります。「日本のどこがいいのですか?カナダやアラスカの方が、自然が豊かなのではないですか」と。そんなとき、僕はこう答えます。「北に流氷があって、南にサンゴ礁がある島国が他にありますか」。四季の変化が美しく、木や花の種類も豊富な日本は、本当にすばらしい国。みなさんはこれをもっと誇り、大切に想うべきです。美しい森を守ることができれば、日本はやがて「エデンの園」になれる。私はそう、信じています。かならずできるから。

Prolile

  • C.W. ニコルさん
  • C.W. ニコルさん
  • 作家、C.W. ニコル・アファンの森財団理事長、(公社)日本アロマ環境協会顧問
    1940年7月17日英国南ウェールズ生まれ。1980年、長野県に居を定め、執筆活動を続けるとともに、1986年より、森の再生活動を実践するため、荒れ果てた里山を購入。その里山を『アファンの森』と名づけ、再生活動を始める。1995年7月、日本国籍を取得。