アロマテラピー検定・資格の認定、学術調査研究の実施

アロマの研究・調査

アロマテラピー学雑誌 Vol.14 No.1 (2013)

原著論文

α-ピネン,リモネンによる嗅覚刺激がコンピュータ作業時の生理応答に与える影響

著者名 恒次祐子 石橋圭太 岩永光一
文献名 アロマテラピー学雑誌14(1)1-7

本研究の目的は樹木のにおい成分であるα-ピネン,リモネンのにおいがコンピュータ(PC)作業時の生理的応答,心理的応答ならびに作業効率に与える影響を明らかにすることである。加えて各生理機能が全身的にどのように協関しながら反応しているかを明らかにするために,各生理指標間の相関を解析した。被験者は20代の男性大学生15名(22.7±3.1歳)とし,PC上にて20分間の監視作業に従事する間,α-ピネンまたはリモネンのにおいを提示した。対照は無臭(空気)とした。監視作業中ならびに前後の安静中,脳波,近赤外線分光分析法による脳血液動態,収縮期血圧,拡張期血圧,脈拍数,心電図(心拍数・心拍変動性解析のため)を連続的に測定した。作業終了後に,においの主観的快適感・鎮静感・自然感ならびににおい強度の評価を質問紙にて実施した。α-ピネン,リモネンのにおいは無臭の空気より主観的に有意に強いと評価されたが,これらの吸入は,対照と比較して測定した生理指標に明確な影響を及ぼさなかった。脳波,脳血液動態,血圧,心拍数はPC作業に伴う経時的変化を示した。各生理指標間の相関を検討した結果,α-ピネン,リモネンの呈示時にのみ,脈拍数または血圧と脳酸素化ヘモグロビンの上昇に有意な正の相関が認められ,これらの呈示が,生理機能間の協関反応に影響を与えた可能性が示唆された。

キーワード

監視作業,脳波,近赤外分光分析法(NIRS),アロマテラピー,全身的協関

マカダミアナッツオイルを使用したアロマテラピーの影響-メタボリックシンドローム予備軍へのアプローチ-

著者名 阪上未紀 前田和久 大場瑞枝 東城博雅 伊藤壽記
文献名 アロマテラピー学雑誌14(1)8-14

アロマテラピーで用いられるキャリアオイルの中には,疫学的・栄養学的に動脈硬化性疾患の予防効果が示されている脂質を含むものが多くある。しかし,これらの脂質の経皮吸収能や血中動態,生理機能に与える影響を検討した報告は少ない。本研究では,まずインスリン抵抗性や動脈硬化の改善に関与するリポカインとして報告されているパルミトレイン酸を豊富に含んでいるマカダミアナッツオイルを使用し,経皮吸収能および血中動態の検討を行った。その結果,施術後1時間で血中に吸収されていることが確認できた。また,施術後に75 g OGTTを行ったところ,マカダミアナッツオイル群において有意に血糖値の減少が確認できた。また,マカダミアナッツオイル塗布によるメタボリックシンドローム介入の実際の場面を想定し,男性労働者を対象に芳香に関する意識調査とストレス軽減効果の検討を行った。こうしたキャリアオイルに組み合わせる精油に対する男性の意識は,サイプレスがよりリラックスすると感じると回答があった。さらにメタボリックシンドローム予備軍である男性未病者を対象にサイプレスとマカダミアナッツのブレンドオイルに効果が認められた。

キーワード

パルミトレイン酸,マカダミアナッツオイル,抗動脈硬化,メタボリックシンドローム,行動変容

皮膚バリア機能,メラニン産生抑制,肌弾力に対する精油の効果検討

著者名 熊谷千津 野田信三 河野弘美 佐藤有希 塩原みゆき 山本芳邦
文献名 アロマテラピー学雑誌14(1)15-26

精油の美容効果を明らかにする目的でin vitroおよびin vivoの実験を行った。In vitroの実験では,ローズ精油,ラベンダー精油,カモミール・ローマン精油を使用し,表皮細胞のUVB細胞傷害緩和,真皮層線維芽細胞のUVB細胞傷害緩和,真皮層線維芽細胞のコラーゲン合成促進,表皮細胞のヒアルロン酸合成促進,真皮層線維芽細胞のヒアルロン酸合成促進およびメラニン産生抑制作用を評価した。表皮細胞のUVB細胞傷害緩和作用が,ローズ精油およびラベンダー精油に認められた。線維芽細胞のコラーゲン合成促進作用は,ローズ精油,ラベンダー精油,カモミール・ローマン精油,いずれの精油においても,有意に認められた。線維芽細胞のヒアルロン酸合成促進作用は,ラベンダー精油において有意に認められた。また,表皮細胞では,すべての精油において,ヒアルロン酸合成量の有意な低下が認められた。メラニン産生に関しては,ラベンダー精油において,抑制傾向が認められたが,ローズ精油,カモミール・ローマン精油においては,産生促進傾向が認められた。In vivoの実験では,ホホバオイルにローズ精油を1%希釈したトリートメントオイルを連用することによる,肌への影響を調べた。評価項目として,角層水分量,角層水分蒸散量,肌弾力,キメ画像,肌画像解析,皮膚拡大写真,マイクロスコープ画像,肌色,角層細胞画像,指尖脈波,ストレスマーカーとして唾液アミラーゼを測定した。ローズ精油(1%)ホホバオイル希釈の連用により角層水分量の増加,ローズ精油(1%)ホホバオイル希釈およびホホバオイル連用により,肌弾力の増加,角層細胞状態の改善が認められた。以上のことから,精油によって,UVB細胞傷害緩和作用,コラーゲン合成促進作用,ヒアルロン合成促進作用を有することおよびローズ精油(1%)ホホバオイル希釈の連用により,肌に良好に作用することが,今回の研究で明らかとなった。

キーワード

UVB細胞傷害,コラーゲン合成,ヒアルロン酸合成,メラニン産生,精油

カモミール・ローマンのコラーゲン合成促進作用

著者名 熊谷千津 野田信三 河野弘美 佐藤有希 塩原みゆき 山本芳邦
文献名 アロマテラピー学雑誌14(1)27-36

われわれは,カモミール・ローマン精油のコラーゲン合成促進作用を明らかにする目的でin vitroおよびin vivoの実験を行った。in vitroの実験では,対照にカモミール・ジャーマン精油,カモミール・ローマンエキストラクト,カモミール・ジャーマンエキストラクトを使用し,真皮層線維芽細胞のコラーゲン合成促進作用を比較した。すべての試料において,コラーゲン定量値の有意な増加が認められた。また,カモミール・ローマン精油,カモミール・ジャーマンエキストラクト,カモミール・ローマンエキストラクトに細胞毒性は認められず,カモミール・ローマン精油に,最も高いコラーゲン合成促進作用が確認された。このことから,カモミール・ローマン精油は,数あるカモミールの中でも,最も有効かつ安全性に優れた線維芽細胞のコラーゲン合成促進剤として期待される。in vivoの実験では,ホホバオイルにカモミール・ローマン精油を1%希釈したトリートメントオイルを連用することによる肌への影響を調べた。評価項目として,角層水分量,皮脂量,角層水分蒸散量,肌弾力,キメ画像,キメ係数,肌画像解析,指尖脈波,皮膚拡大写真,マイクロスコープ画像,肌色,角層細胞画像,ストレスマーカーとして唾液アミラーゼを測定した。カモミール・ローマン精油(1%)ホホバオイル希釈の連用によって,下腿の角層水分量の有意な増加が確認された。今後は,コラーゲン合成作用発現に最適な濃度および使用方法解明のため,実際の使用によるヒトの肌への影響を追究していく必要がある。

キーワード

カモミール・ローマン,カモミールエキストラクト,精油,コラーゲン合成

香料成分の皮膚透過性に及ぼす基材の影響

著者名 藤堂浩明 守屋卓幸 井上晴幾 須釜猛 杉林堅次
文献名 アロマテラピー学雑誌14(1)37-45

皮膚に塗布した物質の有効性や安全性を評価するには,それらの皮膚透過性を把握することが重要である。ほとんどの化学物質の皮膚透過速度は,Fickの拡散則に従い,塗布濃度と皮膚バリア中の濃度勾配に比例する。化学物質のなかには皮膚塗布部位から揮発し,物質濃度が減少するものもあるため,単純にFickの拡散則を適用できない場合もある。そこで,蒸気圧の異なる4種類の香料成分と主にアロマテラピーで基材として用いられているホホバオイルを用いて,香料成分の皮膚代替膜透過性および揮発性の評価を行った。また,その他基材として,ホホバオイルと物性のよく似ているオリーブオイル,さらに一般的な溶媒であるエタノールおよび精製水も用い,香料成分の皮膚透過性に及ぼす基材の影響を調べた。得られた結果より,香料の膜透過性は香料の基材の影響を受け,ホホバオイルやオリーブオイルからの香料成分の透過性は水基材からの透過性よりも低値となることがわかった。

キーワード

皮膚透過性, 揮発性成分,基材,代替膜,有効性・安全性

d-リモネンおよびd-リモネンを含む精油の保存によるリモネンオキサイド生成と抗カンジダ活性の増加

著者名 高橋美貴 安部茂
文献名 アロマテラピー学雑誌14(1)46-51

柑橘系精油および主成分であるd-リモネンの酸化変性に伴う,酸化物生成および抗カンジダ活性の変化について検討を加え,知見を得た。d-リモネンを主成分として含む精油,グレープフルーツ油とオレンジ・スイート油で,常温暗所に3年間保存したものと,新品について,ガスクロ分析で比較した結果,構成化合物であるリモネンオキサイドの生成および抗カンジダ活性の増加から判断して,グレープフルーツ油の変性のほうが抑制されることが示唆された。 グレープフルーツ油とd-リモネンを太陽光照射すると,d-リモネンよりもグレープフルーツ油のほうが酸化されにくく,d-リモネンにフロクマリン類の1つである8-メトキシソラレンを加えると酸化が抑制される傾向が認められた。さらに,太陽光照射による実験では,光,温度など一定条件にならないため,人工的に光照射で酸化させる条件を,グロースチャンバーを用いることで可能なこと見いだした。これによって今後,より正確に酸化物の生成についての研究を進める基礎ができたと考える。

キーワード

d-リモネン,柑橘系精油,グレープフルーツ油,酸化,C. albicans

妊産婦におけるアロマ吸入によるストレス軽減効果の検討

著者名 宋美玄 石井浩志 比奈朋子 石田剛 中井祐一郎 戸田雅裕 下屋浩一郎
文献名 アロマテラピー学雑誌14(1)52-57

緒言:質問表と唾液中マーカー測定によってストレスを定量化し,アロマテラピーの妊産婦に対するストレス軽減効果を検証した。
対象と方法:2012年4月より2013年3月までに川崎医科大学附属病院および協力施設において妊娠分娩管理を行った妊産婦を対象とした。患者背景の問診,GHQ-28とZung SDSによる精神的ストレス定量化を行い,3種類の精油より妊産婦の選択した1種類を吸引させ,前後で唾液採取とVASによる評価を行った。妊婦は妊娠26~34週に,褥婦は産褥5日目に朝食後2時間経過した午前10時から11時の間に行った。アロマの吸引はいずれかの精油を試験管チューブ内に入れ,吸引を行った。
結果:妊婦36名と褥婦19名が参加し,解析可能であった妊婦21名と褥婦8名について解析した。対象症例の妊婦と褥婦の平均年齢はそれぞれ33.0±3.8歳,32.0±6.3歳であり,妊婦群の12名,褥婦群の5名が初産婦であった。妊婦の検体採取時期は平均29.0±2.8週であった。児の出生体重は妊婦群が平均3,110±356g, 褥婦群が3,194±483gであった。GHQ-28にて妊婦および褥婦において比較的強いストレスが示された。アロマの吸引前後のVASは妊婦で吸引前4.7±1.4から吸引後2.7±1.3, 褥婦で吸引前5.0±1.8から吸引後3.0±1.9と有意に自覚的ストレス量が減少した。妊産婦の唾液中のクロモグラニンAとアミラーゼは変化がなかったが,コルチゾールは吸引後有意に約20%減少した。
考察:アロマテラピーは妊産婦の唾液中のコルチゾールを低下し,ストレスを軽減させている。

キーワード

アロマ吸引,母体ストレス,コルチゾール,視床下部-下垂体-副腎皮質系