アロマテラピー検定・資格の認定、学術調査研究の実施

アロマの研究・調査

アロマテラピー学雑誌 Vol.13 No.1 (2013)

総説

暮らしの中の土壌と地球環境の中の土壌―その機能性から見た役割と今後の展望―

著者名 松本聰
文献名 アロマテラピー学雑誌13(1)4-13

地球の陸域の表面は,ミクロコスモスと呼ばれる生態機能を有する土壌で被覆されているが,その厚さはたかだか,200cmたらずの薄い土層である。この薄い土層の中で営まれる物質循環機能を通して,土壌は地球に安定な環境を作るべく,大きな役割を果たしている。湿潤地域に広く分布する黒い土色を有する土層は有機物を多く含み,数多の種類の生物を住まわせ,それらの働きを通じて,炭素,窒素,硫黄など多くの生元素(生物体を構成する元素)の物質循環を行っている。また,乾燥地域に分布する土色は明るい土層は生元素の物質循環を駆動させるほどの生物活性こそ低いが,アルベドを通して太陽からのエネルギーと大気の循環にきわめて大きな役割を果たしていると見られる。このように土壌は,どの地域の土壌であっても,地球環境の安定的な維持に一定の役割を果たしている。一方,人類はこの薄い土層のさらに薄い部分を耕し,種子を播き,自らの生命を維持する糧を得てきた。農業というこの生物生産の方法が,2,000年以上にわたって基本的には何らの変更もなく継続されてきたことは,地球上での生物生産はこの方式がもっとも合理的であり,持続的であることを示唆している。しかしながら,人類は一方では,飽くなき富の追求を土壌資源に求めた結果,世界の各地で深刻な土壌荒廃(砂漠化)と土壌汚染を大規模に引き起こしている。ひとたび土壌荒廃が進むと,地球環境は不安定さを増幅し,安定な地球生態系の維持が困難になってくる。なぜならば,地球環境を構成する因子が乱れれば,安定であるはずの地球環境も脆弱な状況になることも考えられるからである。昨今の異常気象がその兆候とする直接的な科学的根拠はないが,破滅的な状況が到来する前に,身の回りの小さな土壌環境から,地球規模の大きな土壌環境まで,持続可能な道を求めて,真剣に議論し,とるべき行動を追求していかなければならない。

キーワード

土壌,土壌生態系,土壌荒廃,土壌汚染,ミクロコスモス,地球環境,物質循環,生物生産

原著論文

キャリアオイルとしてのユズシードオイルの放香特性および美白作用

著者名 沢村正義 熊谷千津 馬場正樹 岡田嘉仁 吉金優 浅野公人 東谷望史 塚田弘行
文献名 アロマテラピー学雑誌13(1)14-20

ユズシードオイルのキャリアオイルへの応用の目的で研究を行った。試料オイルにはユズシードオイルとスイートアーモンドオイルの種子油を使用した。キャリアオイルに溶解した4種類の精油の放香性について両オイルで定量的比較を行った。その結果,いずれの精油においてもユズシードオイルからの放香性がスイートアーモンドオイルよりも有意に高く,前者の放香性が高いことが明らかになった。次に,キャリアオイルのヒトの肌への評価試験を行った。被験者は20名の健常成人とし,両オイルを各被験者の前腕内側に,0.5mlずつ4週間連用した。連用開始前,終了時,連用終了1週後,2週後に,水分蒸散量,角層水分量,メラニン量,肌理について測定した。角層水分量はいずれのオイルにおいても連用中,増加傾向が見られたが連用終了後は低下した。このことは,キャリアオイルによる肌の保湿性の向上は一過性であることを示している。肌のメラニン量は,両オイルとも連用することにより使用前に比べ有意に減少し,その低いレベルは連用終了後少なくとも2週間持続した。さらに,マッシュルーム由来のチロシナーゼ活性の両オイルによる阻害効果が見いだされ,とくにユズシードオイルで高かった。また,チロシナーゼ活性測定において,無極性のオイル試料にも適用可能で新規な分析法を設定した。以上のことから,一般的なスイートアーモンドオイルと同様にユズシードオイルのキャリアオイルへの応用が期待されるとともに,キャリアオイルに美白作用の効果があることが初めて明らかとなった。

キーワード

ユズシードオイル,スイートアーモンドオイル,キャリアオイル,アロマテラピー,美白

30種の精油を用いた嗜好性の個人差に関する実態調査

著者名 中山友紀 長山優 山口昌樹
文献名 アロマテラピー学雑誌13(1)21-28

本研究では,主観評価と唾液アミラーゼ活性から,精油の嗜好性とその生理反応の相関性を明らかにすることを目的としている。被検者には日常的に精油を使用している女性151名を用いた。被検者にとって元気になる精油とリラックスする精油を30種類の中から選定させ,ストレッサーとして用いた。さらに共分散構造分析を用いて,嗜好性の高い精油の香りに関するストレス反応系を,嗜好性・生理反応双方を考慮した生体モデルとして求めた。その結果,元気になる精油では被検者の嗜好性と生理反応がよく一致した。一方で,リラックスする精油では,嗜好性には影響をもたらしたが,生理反応にはほとんど影響がなかった。この原因としては,精油に対する先入観や,言語概念に対する個人差が嗜好性に反映されたのではないかと考えられた。

キーワード

精油,バイオマーカー,唾液アミラーゼ,交感神経系,共分散構造分析

ラベンダー精油とグレープフルーツ精油による自律神経系および免疫系に及ぼす影響

著者名 細井英司 曽根淳美 安藝健作
文献名 アロマテラピー学雑誌13(1)29-40

近年,ストレス解消法としてアロマテラピーが注目を集めている。本研究では,精油の「香り」が心身に及ぼす影響と効果を自律神経系評価指標[唾液アミラーゼ値(AMY)と心電図R-R間隔変動係数]と免疫系評価指標[免疫細胞(CD4細胞%,CD8細胞%およびNK細胞%)とNK細胞膜上CD56抗原密度(NK細胞GMFI)]の変動から解析した。短期のラベンダー精油とグレープフルーツ精油吸入(20分間)は,特にNK細胞%,CD4細胞%の増減やNK細胞GMFIに影響を与えたが,この反応性は個人差が大きいことが明らかとなった。一方,長期ラベンダー精油吸入(7日間)は,AMYを有意に低下,CD4細胞%を有意に上昇させ,さらにその他の免疫細胞への作用もあり,リラックス効果の可能性が示唆された。また,計算ストレス負荷はCVRR,NK細胞%,CD8細胞%,NK細胞GMFIを有意に上昇させ,さらにAMYの低下とCD4細胞%の有意な低下を導いたことより,適度な交感神経の活性化状態が考えられたが,ストレス負荷後の各精油吸入におけるNK細胞%の変動パターンやその他の評価指標から各精油の影響・効果にも個人差が認められた。
以上のことから,精油による「香り」の効果には,個人差があるが,特にNK細胞%とNK細胞GMFIおよびCD4細胞%を評価指標として用いることが可能であると考えられた。また,ラベンダー精油の「香り」にはリラックス効果があり,特に長期間の「就寝前の断続的な,弱い香り」が免疫状態を徐々に高める可能性が示唆された。

キーワード

アロマテラピー,ラベンダー,グレープフルーツ,自律神経,免疫細胞

親子口腔ケアにおけるアロマテラピーの効果に関する研究

著者名 中村真理 柿木保明 北村知昭 中村真理 柿木保明 北村知昭 榊原葉子 窪真珠子 松崎友祐
文献名 アロマテラピー学雑誌13(1)41-46

これまでわれわれは,歯科医療における一般受診者が抱く不安,緊張や不定愁訴に対するアロマテラピーの効果について報告してきた。本研究では,親子口腔ケア教室において,タッチングを併用したアロマテラピーの効果を検討した。その結果,タッチングを併用したアロマテラピーにより,対象者が口腔ケアの時間を楽しみながら口腔に関心を持つことが明らかになった。また,唾液アミラーゼ値の減少から対象者のストレスを軽減させていることも明らかとなった。以上の結果は,タッチングを併用したアロマテラピーにより,日常的に行われる親子による口腔ケアがより行いやすくなることを示唆している。

キーワード

アロマテラピー,親子口腔ケア,タッチング

オレンジ・スイートのにおいが要介護高齢者の就眠前不安にもたらす生理的影響

著者名 松永慶子 李宙営 朴範鎭 宮崎良文
文献名 アロマテラピー学雑誌13(1)47-54

オレンジ・スイートのにおいが要介護高齢者の就眠前不安にもたらす影響を生理的に検討することを目的とし,要介護高齢女性12名を被験者として2泊の実験を行った。オレンジ・スイート25μlを加熱せずに加湿器を用いて拡散させた。就眠前において加湿器を顔に近づけ10分間吸入した後,居室内に充満させながら就眠した。対照は,水による加湿とした。生理評価として心拍変動性,血圧,唾液中コルチゾール,および唾液中IgAを測定した。主観評価として簡易感情尺度,熟眠感を聴取した。行動評価として睡眠中行動記録,体動回数,および夜勤巡視時情報を評価した。その結果,就眠前オレンジ・スイート吸入において心拍変動性における副交感神経活動の指標であるHF値は平均133.2(対照61.3; p<0.05)であり有意に高値を示し,9名の被験者が楽しく笑顔になりそうだと答えた。9名が寝入りばなに体動なく就眠しており,覚醒後,HF値は平均119.2(対照238.5; p<0.05)であり有意に低値を示した。10名が物事に興味や喜びを感じ安心であると答え,10~11名において熟眠感の改善が認められた。結論として,オレンジ・スイートのにおいが要介護高齢者を生理的にリラックスさせ就眠前不安を和らげることが明らかとなった。

キーワード

要介護高齢者,就眠前不安,心拍変動性,アロマテラピー,オレンジ・スイート

研究ノート

植物の精油ならびに精油成分の吸入が要介護高齢者にもたらす主観的影響

著者名 松永慶子 李宙営 朴範鎭 宮崎良文
文献名 アロマテラピー学雑誌13(1)55-62

植物のにおいが26名の高齢女性(年齢73~94歳)に及ぼす主観的影響が調べられた。におい物質はオレンジ・スイート(Citrus sinensis),レモン(Citrus limon),ラベンダー(Lavandula officinalis),ローズ(Rosa damascena),タイワンヒノキ材油(Chamaecyparis obtusa var. formosana),リモネンおよびα-ピネンとし,水を対照とした。におい物質(25μlあるいは50μl)を脱脂綿のシートに染み込ませ,400mlのポリプロピレン製カップに入れて密封し,20℃において実験前の1晩カップ内で蒸散させた。におい物質を各1回1分間吸入させ,におい強度と主観評価について聞き取った。におい物質への曝露は5分間以上の間隔をおいて行った。主観評価は「快適な-不快な」「懐かしい-目新しい」「自然な-人工的な」「心がゆったりする-心が刺激される」および「眠くなる感じ-目が覚める感じ」の5種類について評価した。統計解析はウィルコクソンの符号付順位和検定を用いた。その結果,各におい物質の評価は下記のようになった。オレンジ・スイートは「心がゆったり」し (p<0.05),レモンは「懐かしく」(p<0.05) ,「目が覚める」(p<0.01)と評価された。ラベンダーは「人工的」で (p<0.05) ,「目が覚める」(p<0.05)と評価され, ローズは「人工的」で (p<0.05),「心が刺激され」 (p<0.05),「目が覚める」(p<0.05) と評価されていた。タイワンヒノキ材油とリモネンは 「目が覚める」(p<0.05)と評価され,α-ピネンは「目新しい」(p<0.05)と評価されていた。

キーワード

要介護高齢者,嗅覚刺激,主観評価,アロマテラピー,リラックス効果

真正ラベンダーを用いた芳香浴はストレッチの効果を高めるか?―試行的二重盲検無作為化比較対照試験―

著者名 上出直人 萩原咲 長者森早苗
文献名 アロマテラピー学雑誌13(1)63-68

ラベンダー精油の香り吸入がストレッチ運動の効果を高めることができるか否かを,二重盲検無作為化比較対照試験により検証した。健常成人34名(男性14名,女性20名)を対象とし,対象者はラベンダー精油の香り吸入とストレッチ運動を実施する群(ラベンダー群)と,水蒸気の吸入とストレッチ運動を実施する群(プラセボ群)に,男女別に無作為に振り分けた。ラベンダー群に対しては,ラベンダー精油を用いた芳香浴を安静臥位の状態で10分間施行した後,下肢のストレッチ運動を実施した。プラセボ群に対しては,水蒸気のみを拡散させた芳香浴を安静臥位の状態で10分間施行した後,下肢のストレッチ運動を実施した。ストレッチ運動の効果判定として,筋の柔軟性の指標である下肢伸展挙上(SLR)角度を計測した。その結果,女性においては,プラセボ群と比較してラベンダー群のSLR角度が有意に向上したが,男性ではラベンダー群とプラセボ群のSLR角度に有意な差は認められなかった。したがって,ラベンダー精油の香り吸入は,女性に関してはストレッチ運動の効果を高めることが示された。

キーワード

ラベンダー精油,二重盲検無作為化比較対照試験,ストレッチ