アロマテラピー検定・資格の認定、学術調査研究の実施

アロマの研究・調査

アロマテラピー学雑誌 Vol.12 No.1 (2012)

総説

日本におけるラベンダーの歴史

著者名 尾作由起子
文献名 アロマテラピー学雑誌12(1)1-9

 ラベンダーが初めて日本に渡来し移植されたのは,幕末期であったとみられる。遣米使節が1860年(万延元年)に持ち帰った種子が,翌年,京都の薬草園に植えられた記録が残っている。明治期には,精油が香料として輸入され,せっけんや化粧品の製造に盛んに用いられるようになり,ラベンダーオイルは主要かつ不可欠な輸入香料となった。大正期の出版物に当時,香料作物として栽培されていたことを示す一文があるほか,1935(昭和10)年ごろには静岡県の伊豆で栽培が始められているが,ラベンダーオイルの生産において国内随一の実績を築いたのは,1937(昭和12)年にフランスから種子を取り寄せ北海道で栽培を開始した曽田香料株式会社である。今日の北海道ラベンダーは,1970(昭和45)年過ぎに香料作物としてのラベンダーが衰退したあと,観光資源として再生されたものである。本稿は,史実の掘り起こしと継承に資するべく,以上のような経過をたどった日本におけるラベンダーの歴史を,香料史の中に位置づけながら小史としてまとめたものである。北海道における香料作物としての盛衰の経緯については,関係者の証言からも史実を掘り起こし,検証と考察を試みた。

キーワード

ラベンダー,ラベンダーオイル,宇田川棒斎,山本榕室,今井源四郎,曽田政治,曽田香料株式会社

原著論文

「認知機能」に及ぼすaroma効果の行動実験による評価

著者名 前田多章 
文献名 アロマテラピー学雑誌12(1)10-27

 対象を健常成人および健常高齢者とし,文章(会話文)を前半と後半に分け順次提示し,被験者に,先に提示された会話文(前半)と後に提示された会話文(後半)が同一の会話文(文脈が一致している)かどうかを判定させる文脈情報連続性判定パラダイムを遂行させ,「文脈記憶能力」を比較評価した。当該パラダイムでは,前半の会話文提示後,「計算課題」を行わせることにより,「文脈記憶」に干渉させ,その後に提示される後半の会話文が前出の会話文と文脈上一致しているか判定する二重課題である。この結果,健常成人では文脈を記憶する際,干渉作業を介在させ近似記憶にすることにより,持続的に記憶するよりも「文脈記憶能力」が上がる結果が得られた。また,干渉作業が複雑化し負荷がかかりすぎると,情報処理の不活性化に先んじて蓄積情報の不活性化が起こる結果を得た。健常高齢者では,近似記憶は,情報蓄積能力を提言低減させる結果を得た。ペパーミントを用いたaroma環境下で,健常成人では,情報蓄積能力が向上することを確認した。健常高齢者では,健常高齢者に見られる「文脈記憶能力」特性を改善し,健常成人の「文脈記憶能力」特性に近い状態にすることが確認された。

キーワード

加齢性記憶障害,ワーキングメモリ,短期記憶,長期記憶,近似記憶,アロマテラピー

ラベンダーの香りが側頭葉てんかん患者の事象関連電位P300成分に与える影響

著者名 渡邊さつき 原恵子 太田克也 飯野弘子 宮島美穂 松田綾沙 原實 前原健寿 松浦雅人 松島英介
文献名 アロマテラピー学雑誌12(1)28-33

 ラベンダーは最もよく知られた精油の一つである。われわれはこれまでに,健常者においてラベンダーの香りが聴覚P300に与える影響について研究を行い,ラベンダーの香りが情報処理効率を改善することを報告した。しかしながら,側頭葉機能が障害されている側頭葉てんかん患者においては,このラベンダーの香りの効果が認められないのではないかと仮説を立てた。本研究では,16人の側頭葉てんかん患者と16人の健常者を対象とし,ラベンダーを嗅いだときの聴覚P300を測定した。被験者は,オドボール課題を行いながらラベンダーの香りあるいは無臭コントロールを嗅いだ。P300潜時は,側頭葉てんかん患者と健常者のいずれにおいてもラベンダーの影響を受けなかった。P300振幅は,健常者においてのみ無臭に比べてラベンダー条件下で低下した。このことから,健常者ではラベンダーの香りによって処理資源が減少し情報処理の効率化が起きたが,側頭葉てんかんではその効果が制限されることが示唆された。側頭葉てんかん患者では,高次嗅覚認知過程が障害されているためにラベンダーの香りの効果が制限された可能性があると考えた。

キーワード

高次嗅覚認知,嗅覚,認知機能,事象関連電位,アロマ

唾液バイオマーカーによる精油の施行と生理反応の関連性の検証

著者名 中野敦行 長山優 佐々木誠 山口昌樹
文献名 アロマテラピー学雑誌12(1)34-40

 精油の香りの嗜好性と生理反応の関連性を考察することを目的として,日常的に精油を使用している被験者22名(40.6±8.4歳,mean±SD)を用い,被験者に好まれる5種類の精油を嗅覚刺激として,主観評価と唾液バイオメーカー(アミラーゼとコルチゾール)の同時分析を行った。交感神経活性は,精油の種類によって,活性化,鎮静化,鎮静化と活性化といった3パターンを示した。被験者を好みのスコアで2群に分けて比較したところ,ゼラニウムのみで群間に有意差が観察された。この原因としては,好みの個人差が唾液アミラーゼ活性の経時変化に反映されたのではないかと考えられた。これらより,唾液バイオマーカーを用いれば,精油の嗜好性によって引き起こされる複雑な生理反応を考察できる可能性が示唆された。

キーワード

植物精油,バイオマーカー,唾液アミラーゼ,交感神経系

アロマテラピーにおけるキャリアオイルとしてのユズシードオイルの基本特性

著者名 沢村正義 熊谷千津 和田真理 岡田嘉仁 浅野公人 吉金優 塚田弘行
文献名 アロマテラピー学雑誌12(1)41-49

 ユズシードオイルについて,物理的・化学的特性ならびにキャリアオイルへの適用に向けた基礎的研究を行った。本オイルは淡黄色を帯び,粘度は69mPa・sで,伸びの良い粘性を有する。ヨウ素値は100であり半乾性油に分類される。凝固点は10±1℃であった。10週間にわたって5℃,20℃,37℃で酸価の経時的変化追跡した結果,酸価の上昇は最大で0.04とわずかであった。このことは,本オイルが酸化されにくいことを示唆している。ビタミンEはα-,β-,γ-トコフェロールの合計で25.4mg/100gであった。植物ステロールとして,カンペステロール,スチグマステロール,β-シトステロール含量はそれぞれ,17.0,3.1,64.2mg/100gであった。キャリアオイルの肌への影響試験では,25名の被験者の前腕内側に,1日1回(夜)オイルを1ml,28日間連用した。水分蒸散量,角層水分量,メラニン量を,0日目のオイル連用直前と29日目に測定した。統計処理は20歳代群と30歳以上群の二つのグループに分けて行った。水分蒸散量は,20歳代群において非連用(コントロール)部位およびユズシードオイル連用部位ともに有意な増加が認められたが,30歳以上群においては減少し,改善傾向が認められた。角層水分量の変化率は,いずれのグループもコントロール部位よりも増加がみられた。また,メラニン量はいずれのグループにおいても,連用により有意に減少した。このことから,ユズシードオイルがメラニン合成系に何らかの抑制作用を及ぼしていることが推察された。以上のことから,ユズシードオイルは保湿作用および美白作用を有する可能性が示唆された。

キーワード

シードオイル,ユズ,キャリアオイル,アロマテラピー,美白

アロマコラージュ療法を複数回実施することによる作品および心理社会的変化

著者名 福島明子
文献名 アロマテラピー学雑誌12(1)50-65

 本研究では,アロマコラージュ療法(Aromacollage Therapy:ARCT)を3回実施し,作品,被調査者の心境,社会的スキル,自尊感情にどのような変化があるか検討を行った(ARCT群N=16,統制群N=21)。フレグランスやコラージュ作品の分析,アロマコラージュ療法後の感想から,毎回趣向を変えて楽しみながら制作し,回を重ねるごとに作風が変わり,個性が発揮され,作品満足度が高まることが明らかにされた。作品の特徴から情緒的安定,自己表現の深まりが示唆された。アロマコラージュ療法後に社会的スキルが有意に高まっており,香りや作品が媒介となり,あるいは制作しながらコミュニケーションが促進されたことが示唆された。一人の被験者の作品について検討を行ったところ,回を重ねるごとに作品が変化していったことが明らかにされた。第2回の感想には高揚感や生きる喜びが,第3回の感想にはこの作品が私のすべてであると綴られ,自己開示の高まりを通して至福の境地に到達したことがわかった。以上のように,アロマコラージュ療法を複数回実施することでより自由に表現できるようになり,それに伴い自己表現の深まり,自己領域の拡大が期待できることが明らかにされた。

キーワード

アロマコラージュ療法,作品変化,社会的スキル

20種類の精油の微生物に対する制菌効果

著者名 川上裕司 橋本一浩 福田安住 菅沼薫 新井亮 熊谷千津 ケイ武居 野田信三 野松慶子 野村美佐子 福島明子 藤田晶子 松田都子 和智進一 山本芳邦
文献名 アロマテラピー学雑誌12(1)66-78

 防カビ効果や抗菌作用が報告されている20種の精油を対象として,真菌54種と細菌3種に対する制菌効果を検証した。制菌効果は,ハロー法(寒天拡散法)によって評価した。ハロー法による試験の結果から,20種の精油にはそれぞれ供試した菌種に対する制菌効果の違いが認められた。日和見感染症の起因菌,住環境・製品汚染菌,食品汚染菌,美術品汚染菌などのカテゴリーごとに,制菌効果のある精油を使い分けることが実使用には必要であることが示唆された。 

キーワード

制菌効果,精油,微生物,真菌,細菌

施術報告

入院中の妊娠女性に対するアロマテラピーを用いたリラクセーション効果についての検討

著者名 近藤朱音 近藤真由 橋本奈那美 海津鮎美 鈴木知美 橋本千果 小田しおり 石本人士
文献名 アロマテラピー学雑誌12(1)86-91

 近年,補完療法・代替療法などの有効性が報告されるようになり,医療の現場にも少しづつ取り入れられている。なかでもアロマテラピーは分娩時の疼痛緩和やベビーマッサージなど産婦人科領域において有用とされているものの一つである。当院ではハイリスク患者とされる入院中の妊娠女性が非常に多く,入院中のストレスの軽減を目的としてのアロマテラピーの提供を試みている。本研究は入院中の妊娠女性に対する足浴と併用した芳香浴の有用性について検討したものである。入院中の妊娠女性30人に対して従来行っていた足浴のみを1回,また後日芳香浴を併用した足浴を1回行い,それぞれの終了時にVisualAnalogue Scaleを用いた自己記入式質問紙による調査を行いその有効性について比較した。調査の結果より足浴のみと比較して芳香浴を併用した場合に、よりリラクセーション効果が高かったことが示された。同時に足浴のみでもある程度のリラクセーション効果や爽快感を認めており足浴の効果を再確認した。また芳香浴を併用した群ではリラクセーション以外の幸福感,高揚感,爽快感などの項目についても有意に高いVAS値を示した。入院管理中の妊娠女性において足浴と併用した芳香浴はリラクセーションのために有効であった。また各人での香りの好みが多様であることから,被験者の嗜好を尊重することが大事であり,妊娠中ではより安楽な体位などについても十分に考慮することで有効な補完療法となりうることが示唆された。

キーワード

アロマテラピー,足浴,妊娠女性

研究ノート

地域住民のメディカルアロマテラピーに対する意識

著者名 佐々木枝梨子 新海久美 佐藤彩 佐久間義博 鈴木恵太
文献名 アロマテラピー学雑誌12(1)79-85

 近年,補完・代替医療の一つとしてアロマテラピー(メディカルアロマテラピー)が取り入れられるようになってきた。しかしながら,その利用者となる地域住民がメディカルアロマテラピーに対してどのような意識を持っているかを調査した研究は少ない。そこで本研究では,病院近隣市町村における地域住民を対象とした意識調査を行った。その結果,半数以上の者がアロマテラピーに対する「一般的な関心」を持っていることが示された。病院にて看護ケアとして取り入れられていることを知っている者は16.9%と少なかったものの,77.3%の者がメディカルアロマテラピーの実施に期待を持っていることが示された。そして,その内容はアロマトリートメントや手・足の部分浴が多く,リラックスしたいとき,不安・緊張を感じたときなどに受けたいとの希望を持ちことが示された。さらに,メディカルアロマテラピーの普及に関しては,ケアに関する“情報提示(インフォメーション)”が重要であることが示唆された。

キーワード

メディカルアロマテラピー,看護ケア,地域住民,意識,アンケート調査