3.香りを再び絵にする
出来上がった香りの印象を、私が再び絵に描きだしていきます。さまざまな人の感性を介したら、最初の絵はどう変化するでしょうか。
アクリル絵具などの画材に水を多用する技法で、絵画や映像を手がけ、国内外での作品展示・上映の他、東邦大学などで講師を務めている。また、身体感覚に基づいたワークショップ「観香倶楽部」を通して精油の香りを絵にする活動を続けている。
絵画を鑑賞し、そこから感じた印象を香りで表現してみましょう。
五感を研ぎ澄ませて香りを紡いでゆく体験は、自分の記憶を辿るような不思議な感覚です。
同じ絵をみても、イメージする香りは人それぞれ。
「どうしてこの香りを選んだのかな」
人との感覚の違いはたくさんの発見をもたらしてくれます。
出来上がった香りの印象を、私が再び絵に描きだしていきます。さまざまな人の感性を介したら、最初の絵はどう変化するでしょうか。
個展、グループ展、映像上映など幅広い活躍で国内外から注目を集めている、アーティストで水彩画家の佐原和人さん。目には見えない香りを、絵で表現する活動をされています。
絵画を鑑賞して香りを作るという今までにない体験は、感性が研ぎ澄まされる素敵なひとときでした。
ある日、佐原さんが街を歩いていた時のこと。見慣れた日本の景色の中に、ふとロンドンの景色が見えました。実は、偶然すれ違った人の香りがロンドンで嗅いだことのある香りと同じだったのです。香りが、忘れていた景色を目の前に見せてくれた。その体験がきっかけで、香りからインスピレーションを得る、ということに興味を持ったそうです。香りがもたらしてくれる思いがけない発想が、想像を超えたアートを生み出してくれるとのこと。「作品に触れたあと、今まで見ていた景色が異なる見え方をするようになる。アートの意味はそのことにある」というお話が印象的でした。
「香り」など目に見えない感覚を視覚的なものに置き換えてみたい、という気持ちから始めた「香りを絵にする」ワークショップ。「観る」と「香る」を組み合わせ、絵画を鑑賞する人と作る人の境界線をなくし、お互いの感覚を共有し合うことで作品を生みだしていくそうです。観る人に絵画から感じる香りをつくってもらい、その香りからインスピレーションを得て、絵を描き、アート作品に仕上げていく、まさに共同作業です。1日に1色ずつ乾かしながら重ねていき、1年間かけて1つの作品を作り上げます。自分の記憶にある香りをもとに、正解のないイメージを形にしていくそうです。
1.今回の講座で最初に鑑賞した作品は、右の絵画。
ここからイメージした香りをグループごとに作り上げていきます。
2.7つのグループそれぞれで絵画をイメージして作った5つのは、
同じ絵を見たのに全く違う香りに。
出来上がった香りをもとに佐原さんが絵を描いていきます。
Aグループ
オレンジ・スイート2滴、フランキンセンス1滴、レモングラス1滴、イランイラン1滴
とても大きな、ふんわりとつつまれそうなふくらみ(傘?)のようなイメージでした。そこに暖色系の水玉がぽつぽつと降ってくるような感じ。
Bグループ
ラベンダー1滴、オレンジ・スイート2滴、ローズウッド1滴、レモングラス1滴、イランイラン1滴
水の帯のようなものがぐるぐると赤い玉のようなものの周りを回っているような感じがしました。赤い玉は、質感はリンゴのような感じがしたのですが、大きさは惑星のように桁外れに大きそうな雰囲気を受けました。
Cグループ
ラベンダー2滴、オレンジ・スイート2滴、ローズウッド1滴、レモングラス1滴
森のような葉っぱの茂みの下から、かきわけてゆくと奥のほうに都市が見える感じ。ゆらゆらと空気がふるえているような、ぼんやりとした明かりが見えました。
Dグループ
ラベンダー3滴、フランキンセンス2滴、スイートマージョラム1滴
回廊のような場所。手前にあるのは柱なのか、何なのか…正体不明の大きな影。遠くからは何かがやってくるのかもしれません。その何か、の姿は見えませんでしたが、気配はしました。
Eグループ
オレンジ・スイート1滴、ローズウッド2滴、レモングラス1滴、スイートマージョラム2滴
まず黄色い、ゆったりしたものが浮かびました。どうやらそれはずっと続く黄色の浜辺の景色。遠くまではよくわからないので、もう少しよく見て(かいで)みたいところです。空はピンク色。全体的にゆったりとした時間が流れているように感じました
Fグループ
ラベンダー2滴、オレンジ・スイート2滴、ローズウッド1滴、レモングラス1滴
足の周りを、水か綿か、何かやわらかそうなものが動いている感じ。早いスピードで動いているようで、なかなかカタチをとらえきれませんでした。
Gグループ
ラベンダー1滴、オレンジ・スイート1滴、ローズウッド1滴、レモングラス1滴、イランイラン1滴、ローズマリー1滴
大きな丸い花が見えた気がしました。よーく見ていると、下のほうに顔のようなものが。花のように見えていたのはもしかしたら誰かの頭だったのかもしれません。
佐原和人さんコメント
僕のどの記憶と繋がってこのイメージが出てきたのか、自分にもわからないことだらけですが、皆さんが調香してくださったアロマから、これだけ別々のイメージが浮かぶのはやっぱり面白いなぁ、と感じました。
参加された皆さんの意識の下にあったものが、香りにのってあらわれたのではないかと思うと、ますます興味深いです。