2019.10.30

学んだ技術を活かして、
地域資源を再発見。

プロフィール

熊本県立
八代工業高等学校

熊本県立 八代工業高等学校
熊本県八代市大福寺町473
TEL: 0965-33-2663(代表)

みんな大好き、晩白柚(ばんぺいゆ)

熊本県のほぼ中央に位置し、日本三大急流のひとつ「球麿川」や清流で知られる「氷川」など、良質な水に恵まれた田園工業都市として発展してきた八代市。畳の原料「いぐさ」の生産は日本一を誇り、トマトの一大産地としても知られています。そして、八代を代表する特産品として八代市民はもちろん熊本県民から愛されているのが、国内最大の柑橘類・晩白柚。直径はおよそ20~25センチで、大きいものでは3キロを超えるものもあるのだとか。レモンの爽やかさとミカンのやさしい甘さを合わせ持ち、そのまま食べておいしいのはもちろん、ゼリーにしたり、また、八代市から南に下った「日奈久温泉」では、湯舟に浮かべてその清々しい香りを楽しむそうです。

テーマは「知識と技術で地域に貢献」

今回「香りラボ」に登場いただくのは、熊本県立八代工業高等学校 工業化学科の3年生。これまで学んだ知識や技術を活かし、“地域のものを使って地域に貢献する”ことをテーマにした課題研究で、八代特産の晩白柚を活かす取り組みをしています。
前年、先輩たちがチャレンジした晩白柚の果皮といぐさの廃棄物を使った芳香剤づくりをさらに掘り下げ、進化させる試みで、実験の方法やより高度な技術について熊本大学の研究室や県の研究機関へヒアリングしているそう。「 石油由来の芳香剤も多い中、晩白柚といぐさでつくるものは100パーセント植物由来。環境保護にも貢献できれば」。技術をどう活かし、どんな世界をつくっていきたいか……高度なスキルとともに、技術者としての心構えやものづくりの原点について考えることも学んでいるのですね。

子どもたちの心を動かす、
化学のチカラ

学校の実験室では、「水蒸気蒸留法」と「溶剤抽出法」の2種類の精油抽出方法を採用。一般的によく用いられる水蒸気蒸留法では、多くの水分と一緒に精油成分が抽出されます。溶剤抽出法では揮発性の溶剤に晩白柚の果皮を入れて温めますが、熱や圧力、水分によって成分が壊れることなく他の物質(色素など)と一緒に精油成分が抽出されるので、水蒸気蒸留法で取り出した抽出液と比べると色や香りに違いが見られることが分かりました。これらの抽出液に「アルギン酸」を混ぜ、「塩化カルシウム溶液」に少しずつ落としていくと……香り成分はアルギン酸の膜に包まれ、小さな粒(アロマビーズ)に変化します。今年の8月、地域の学童クラブを訪れこの実験をデモンストレーションしたところ、化学の不思議さを目の当たりにした小学生たちは、アロマビーズづくりに夢中になったそうです。

アロマを意識することで、
地域資源を見直すきっかけに

芳香剤は、いぐさに含まれるセルロースを利用して吸水性ポリマー(化合物)をつくり、そこに晩白柚の精油を染み込ませてつくります。実験を指導している豊永先生は、地域資源を活かし、環境への負荷も減らす製品の開発をもっと進めようと、まずは県内外の人に知ってもらうことから始めています。八代市教育委員会のイベントに参加したり、学童クラブにアロマビーズ製作の出前授業の打診をしたり、市内のホテルに芳香剤を置いてもらうよう交渉したり、同時に、農家の方々や大学の研究機関と連携して芳香剤の改良や他の製品展開の可能性なども探っています。
実験を終えて、参加した生徒たちに課題研究を通じての感想を聞きました。「柑橘系の香りはリラックスするとよく言われますが、確かに晩白柚が家にあると落ち着くなって改めて思いました」や、「家に畳があったり、窓を開ければ花や果物の香りが漂ってくるのは当たり前のことだと思っていましたが、実は贅沢なのかもしれません」という声も。香りを意識することで、八代の持つ地域資源の価値を改めて見直す機会になったかもしれませんね。

※記事はすべて取材当時の情報です。

プロフィール

熊本県立
八代工業高等学校

熊本県立 八代工業高等学校
熊本県八代市大福寺町473
TEL: 0965-33-2663(代表)

おすすめのインタビュー