いつでも小さな“欲”を持って
人生を楽しくしていこう。

子育てが一段落して、コンサートツアーを再開したのがデビュー25周年のとき。あれから10年経ったんだなと思うと、感慨深いです。ただ、私にとって35周年はひとつの通過点。さまざまな年代のファンの方全員に楽しんでもらえるように、昔の曲でも「懐かしい」だけでなく、新しいアレンジを加えて「こんな森高もいるのか」という驚きを届けたいと思っています。もちろん今でも緊張しますが、デビュー当時とこの10年では、すこし違う気持ちでステージに立っています。20代のころは、先の見えない不安や焦りが山ほどあって、一日一日を必死に乗り越えていました。でも今は、「自分がステージを楽しめば、お客さまもきっと楽しんでくれる」という余裕も生まれて。歌うことがますます好きになっています。

コロナ禍では観客の皆さんがマスクをしていることもあって、リアクションが読めずに悩んだ時期もありました。曲の合間でお客さんとの掛け合いを楽しむ時間などもなくなって、最後までどうやって盛り上げていこうかだったり……。ただ回数を重ねるうちに、だんだんとマスク越しの表情やコンサート会場の雰囲気でリラックスした空気が伝わって、「楽しんでもらえている」実感が戻ってきて。お客さんと直接触れ合えるライブは、やっぱり最高だなって感じています。

娘がナチュラルビューティスタイリスト検定の本を買ってきて受験したのがきっかけで、アロマについても一緒に勉強するようになりました。ディフューザーで香らせるなど以前にも精油を使ったことはありましたが、作用などは知らなかったので、改めて学んでみると面白くなってきて。コロナ禍で時間に余裕ができたことにも後押しされて、久しぶりに学校（アロマスクール）に通ったり、試験勉強をするのもすごく新鮮な体験でした。こんなに昔から人々が香りを活用してたんだなということがとても興味深かったです。

においって、すごく記憶に残りますよね。小学校のとき、寄り道しながら歩いた田圃道の土のにおいや蓮華の花の香りなど、ときどきふっと鼻をかすめるんですよね。犬の散歩をしているときに、思いがけない場所で思いがけないにおいに出合ったりすると、思わず追いかけたくなります。いま改めてアロマを学んでみると、どうして香りにひかれるんだろうとか、なぜこの香りが好きなんだろうとか、うまく言葉にできないのですが、すべてがつながっていくような気がしています。

20代のころは仕事とプライベートの切り替えがなかなかできなくて、気持ちを鎮めたいときなどによくアロマを使っていました。今ではもっと香りそのものを楽しむようになっていて、ぱっと手に取った精油で「あ、いい香り」と感じたものをオイルに混ぜてお風呂に入れたり、「今日はこんな気分かな」と思うアロマスプレーで部屋を香らせたり。アロマを学んでからは、“ひらめき”で選んだ香りも作用と結びつけて考えるようにもなりましたが、意外と“そのとき必要な香り”を選んでいたりして、心と身体はつながっているんだなと実感しています。

嫌なことや悲しいことがあっても、人と話したり美味しいものを食べたり、それこそいい香りを嗅ぐだけでも気持ちが整ったりするので、自分の中の小さな“欲”を満たすことは案外大事なのではと思っています。そうして次の日にはさっぱりした気持ちで1日をスタートした方が、人生はきっと楽しいものになりますよね。

いつか、友達や家族にアロマハンドトリートメントをしてあげられたらいいなと思っています。子どものころ、よく母の肩を揉んで「気持ちいい」と褒められていたんですよ。自分が何かをして相手に喜ばれるのは、シンプルにうれしいですよね。ライブも一緒で、相手の反応が見えるからこそ、今度はこうしようとか、こうやったらよろこんでもらえるかなとか考えることが楽しくて。結局は、自分自身が好きなこと・楽しいと思えることをやり続けていくのがいいんじゃないかなと思っています。